「加奈、楽しかったか?」
旬と奈津美の少し後ろに涼介と並んで歩くと、すぐに涼介が話しかけてきた。
「え……?」
「え、って、結構回ってきたんだろ?」
「あ、うん。楽しかった」
加奈は精一杯笑顔を作って答えた。
「そうか。よかったな」
涼介も笑顔になって満足そうに頷いた。
「……涼介も来ればよかったのに」
「えっ」
加奈の言葉に、涼介は明らかに様子が変わる。
「で、でも、奈津美さん一人置いとくのも……旬、かなり心配してたし」
目を泳がせながら涼介が言った。
「でも、せっかくきたのに……退屈じゃなかった?」
「いや、そんなことはなかったぞ。奈津美さんと色々話してたし……」
涼介の口から奈津美の名前が出たことに、奈津美は反応してしまった。
「奈津美さんってかなりいい人でさ。ホント、旬には勿体無いぐらい。何であの二人が付き合うことになったのかちょっと気になるよなー」
笑いながら、涼介が言った。
加奈には、どう返したらいいか、分からなかった。
何で……何で、そうやって他の女の人のことを笑顔で話すの?
それだけが、加奈の胸を締め付けた。