「実習先で加奈よりちびっ子にいじめられんなよ?」

 涼介が笑みを浮かべながら言った。


「なっ……いじめられません! しかも何よ。あたしもちびっ子だっていうの?」


「ちびっ子だろ?」

 涼介は加奈の頭にポンと手を置く。


 身長が百五十センチ前半の加奈の頭は、百七十センチ後半の涼介の肩の下ほどの位置にある。軽く手を置かれると、その身長差が歴然となる。


「もー! やめてよー! 縮むでしょー!」


「悪い悪い。気にしてるんだもんな」

 涼介は笑いながら手をどかした。


「涼介ぇー」

 むくれたマネをしながら、加奈は嬉しかった。


 こうして涼介と触れ合えることが……



「ねえ、旬の彼女ってどんな人?」

 電車の中で加奈は涼介に尋ねた。


「さあ……俺も会ったことはないけど……でも年上で、噂だとかなり美人らしい」


「えっ……そうなの? 何か意外……旬と年上の人なんて……」


「だよなぁ……でも、一年以上続いてるらしいぞ」


「へぇー。そうなんだ」



 加奈は、高校時代、旬のことが好きだった。

 本当に好きで、告白して振られた時は、ショックでずっと泣いていた。

 それなのに、今はそのことを思い出して、旬の今の彼女のことを聞いたりしても、ちっとも痛くもかゆくもない。複雑な気持ちにもならない。


 それは、涼介がいるから……涼介のことが、その時の旬への気持ちよりももっと大きいから……

 そういうことだと、加奈は気付いていた。