「何? ナツ」


「観覧車……」


「え?」

 旬が奈津美の視線の先を追うように見る。


 店の外の、その更に遠くに七色のゴンドラによってできた観覧車の輪が見えた。


 遊園地の定番と言えるそれは、ここにもあったのだ。


「ナツ、乗りたいの?」


「ううん。あれも、涼介君は無理かなあって思って。観覧車はスピードもないし、そんなに怖くないし」


「あー。無理だな。本当に高所恐怖症の奴って、観覧車みたいにゆっくりじっくり高いところにいる方が怖いんだって」


「そうなの?」


「少なくとも涼介はそうだって言ってた。でも、何で?」

 旬は首を傾げた。


「何だかんだで、涼介君と加奈ちゃん、二人きりになってないじゃない。久々に会ったみたいなのに……でも、無理なら乗らないだろうね、涼介君は」


 もし、涼介が大丈夫というのなら、せめて観覧車の中では二人になれるだろうと思った。しかし、無理だというのならしょうがない。


「あ、そうだ。いいこと思いついた」


 唐突に旬が言った。


「え……何?」


 奈津美が尋ねると、旬はにっこりと微笑むだけで何も言わなかった。