「あ、ナツ来たー」

 トイレから出てきた奈津美を見て、旬が笑顔になる。


「ごめん、待たせちゃって……」

 奈津美は力なくそう言った。


「どしたの、ナツ。元気なくない?」

 旬は首を傾げて奈津美の顔を覗きこんだ。


「あれ? ナツ、ボタン閉めてたっけ?」

 奈津美が答える前に、旬は更に質問を重ねた。


 さすが旬。気付くのが早い。


 奈津美は、さっきまで全部開けていたブラウスのボタンを、第二ボタンまで閉めていた。

 それは言うまでもなく、加奈に言われたこと意識してだった。


「ちょっと……肌寒かったから、閉めたの」

 奈津美は笑顔を作ろうと努力しながら答えた。

 まさか、本当のことなんて言えない。


「え、そう? 寒い? 俺は暑いぐらいだけど……」


「旬は長袖だからよ。あたしは暑くなるかと思って七分袖着てきちゃったから」

 そう言って、奈津美は誤魔化す。


「ふーん。そっか」


「……あ、あれ? そういえば、涼介君と加奈ちゃんは?」

 話題を他に変えようとして、二人が居ないことに気付いた。奈津美は辺りを見回す。


「ああ、外だよ」

 旬は店の外に視線を向けた。


 確かに、ガラス越しに二人が話してるのが見えた。


「そうだ、ナツ。今からゲーセン行くかって話になってたんだけど、いい?」


「ゲーセン? あるの? ここ……」


「うん。俺と加奈は一応全部乗りつくしたし、涼介は乗れないだろうし……あ、でもナツ、乗りたいのとかあった?」


「ううん。……あ」

 首を横に振った奈津美の視線が、旬とは違う方で止まる。