食べ終えた後、奈津美はトイレへ行った。

 用を済まし、個室から出たところで、はっと立ち止まる。


「加奈ちゃん……」

 洗面台の鏡に向かい、加奈が化粧を直していた。


「どうも」

 鏡越しに奈津美を見ると、加奈は小さくそう言った。


 ここの洗面台は二つしかない。

 必然的に、奈津美は加奈の隣に並ぶことになる。


 ……気まずい。どうしようもなく気まずい。


 自分を嫌っていると分かっている相手の前で、嘘でも明るく振舞えるほど、できた人間じゃない。

 どうすればいいのか、対応に困る。


「……やらしい……」

 手を洗っている奈津美の隣で、ボソリと声がした。


「え……?」

 奈津美は驚いて加奈の方を向く。

 加奈は奈津美の方を見ず、マスカラをポーチにしまっている。


「そんな胸の谷間チラチラ見せて、彼氏いるのに、男誘ってるんですか?」


 加奈の冷たい言葉に、奈津美は固まってしまった。

 その様子を尻目に、加奈はさっさと鞄にポーチをしまい、トイレを出て行った。


 奈津美は、呆然としながら、自分の胸元を見下ろした。


 今日は、黒のタンクトップに、白い七分袖のブラウスを羽織っていた。

 胸元がざっくりと開いているというわけではないが、奈津美の豊満な胸は、ふとした瞬間に谷間を覗かせるのかもしれない。


 でも、別に誘っているわけではない。

 彼氏が居る居ないに関わらず、そんなつもりは一切ない。


 加奈は、勘違いしている。

 涼介は、加奈のことをあんなに好きでいるのに……


 あたしって、加奈ちゃんにとっては嫌な存在なのかな……


 そう思い、奈津美はため息をついた。