「男だからってこと、ないと思うよ」

 奈津美はそう口にした。


「男だからグチグチ言ったらダメとか、高所恐怖症なのが情けないとか、そういうのはないと思うよ」


 涼介は奈津美のことを見た。奈津美は正面を向いたまま、言葉を続ける。


「誰にだって好きなものと嫌いなものはあるし、それは人によって違うんだし……あ、でも、あたしの場合、旬と付き合い始めてそれに気付いたんだけどね」

 そこまで言って、奈津美は涼介の方を向いて笑った。


「旬に会うまでは、男の人は……ていうか、自分の彼氏には苦手なものとかあって欲しくなかったんだ。男の人って、あたしより大きい人がほとんどだし、力だって強いし……それこそ、涼介君みたいに高所恐怖症でビビッてる人とか、なんか、男として情けないって思ってた。でも……」

 次を言い始めて、奈津美は思い出し笑いをした。


「それを言ったら旬なんて、甘いものが大好きだし、コーヒー飲めないし、男のくせにってことの塊じゃない。……でもね、それは別に嫌じゃなかったの」


「それって、旬だからですよね。奈津美さん見てたら何となく分かります」

 涼介は、口元を緩めながら言った。


 奈津美の顔は、本当に優しく綻んでいて、それが旬のことを話してるからだというのは、涼介にも分かったのだ。


「ううん。多分、旬だからってことはなかったよ。……あたしね、旬が甘いもの好きだっていうの、まだ旬のことをよく知らない時に知ったの。ケーキバイキングのお店をじっと見ててね、甘いもの好きなの? ってきいたら、恥ずかしそうだったけど、すぐに頷いて……旬は、そういうことを全然隠さなかったから、あたしもすんなり受け入れられたっていうか。旬は苦手なことも好きなことも、一つも隠さないから、旬のことを見損なったりはしたことないかな」


 旬は、どんなことでも堂々と口にする。羞恥心というものがないのかというくらい、どんなことでも堂々と。

 多分旬は、嘘をついたりできない性格なのだ。実際、今回のダブルデートの話を持ち出した時も、明らかに不自然だったから……