もう。旬ってばしょうがないんだから。


 ……おかげで話すタイミングが分からなくなってしまった。

 何だか毒気を抜かれて、話すのをためらってしまった。


 どうしよう……


「……で?」


「え?」

 旬の切り返しに奈津美は虚を突かれた。


「ナツ、何か言おうとしてたじゃん」

 もぐもぐと口は動かしたまま旬は言う。


「えっ……あ……」


 言うタイミングというか、その集中力を切らしてしまったせいで、なかなか本題を口に出せない。


「えっと……その、旬に、聞きたいことが……」


「聞きたいこと?」

 旬は首を傾げる。

 当たり前だが、何も心当たりもないという顔をされて、尚更言いづらくなった。


「聞きたいことっていうか……その……」

 奈津美は視線を下に向ける。


「ん?」

 旬の箸がまた里芋に伸びるのが見えた。今度は、箸で摘まずに最初から指している。


 それを見て気を紛らわせながら、奈津美は気持ちを落ち着けようとする。


 せーので言おう。……せーの!


「あのね!」

 心の中の掛け声と同時に奈津美は顔を上げた。


「うん?」

 旬は頬一杯に里芋をほお張っている。


 それを見た瞬間、また言えなかった。