「――ツ……」


 このままではいけないということは、ずっとこのままでいるのは無理だということは、ちゃんと分かっているつもりだった。


 ただ……


「ナツ……」


 ただ、目を逸らしていただけなのかもしれない。



「ナツー? おーい」

 視界一杯に旬の顔が映った。


「え? あ、はい!」

 奈津美ははっと我に返って返事をした。


 背筋を伸ばしてピシッと返事をした奈津美を見て、旬はきょとんとしている。


「ナツ、どしたの? さっきからぼーっとして。何も食ってないじゃん」


「え? あ……」


 奈津美は自分の手元を見る。自分の茶碗と箸を持ったままで、止まっている。


「何か具合悪い?」

 旬は心配そうな顔で奈津美を覗き込んでいる。


「ううん! 何でもないよ」

 奈津美は笑顔を作って、ご飯を箸で口に運んだ。


「そう?」


「うん。あ、旬、おかわりする?」

 旬の空になった茶碗を見て、奈津美はすかさず言った。


「あ、うん」


「じゃあ、すぐ入れるね」

 奈津美は自分の茶碗と箸を置いた。


「うん。ありがと」


 差し出された茶碗を受け取って、奈津美はすぐに台所へと行った。