「何かさあ、俺が理系ってすっごい意外に思われんだ。俺の高校、二年から文系と理系でクラス分かれたんだけど、一年の希望で理系に出してたら、周りのヤツとか、先生まで間違いじゃないのかって言ってさ。失礼な奴らだよな、全く」

 旬は口を尖らせて言う。


 どうやら、奈津美の思っていたことは違うらしい。旬は、昔からこういう奈津美が思うままの旬だったようだ。


 しかし、逆に言えば、それでも旬が理系に進んだのは、何か確固たる理由があったからなのではないのだろうか。


「……それで、何で旬は理系に進んだの?」

 奈津美が尋ねると、旬はふっと微笑んで前を見据えた。


「俺さ、車の整備士になるのが夢だったんだ」


 また、さっきの表情だった。奈津美がみたことのない、旬の顔……


「さっきの話じゃないけど、俺、やっぱり車が好きでさ。レーサーにはなれなくても、直接車に携わる仕事したいなーって思って。そんで目指したのが整備士ってわけ」


 旬は、奈津美の全く知らない顔で、奈津美の知らない、旬の本当の夢を話した。


「自動車整備士は、その方面のカリキュラムがある学校行ったら、ちゃんとその資格は取れるんだけど、大学はちょっと方法が違ってさ。専門学校だったら大体のところは書類審査と面接だけで試験はないし、最初は専門のつもりだったんだ。受験勉強とかしたくなかったし。でも、入試なくても、物理とか、数学の知識は後で必要になってくるから、理系に進んだの。文系クラスだったら、物理はないし、数学の範囲と進度も違うから」


 こんなにちゃんとしたことを話す旬を見るのは、初めてかもしれない。


 そしてこんなにちゃんとしたことが旬の頭の中にあったなんて、信じられなかった。