「俺もいつか自分の車ほしいなー。外車まではいかなくてもさ、カッコいいやつ」

 目を輝かせる旬を見て、奈津美は微笑ましく思う。


 純粋に、男の子らしい夢だなあと、ほのぼのする。


「でも旬、その前に免許とらないと。運転できないでしょ?」

 いつものように夢心地で語る旬に、奈津美はそうやって現実を提示した。……そのつもりだった。


 旬は、きょとんとした表情で奈津美を見ていた。


「……あれ、ナツに言ってなかったっけ。俺、免許持ってるよ?」


 あまりにも意外な発言だった。意外すぎて、何も言葉が出てこなかった。


「え……」

 奈津美は目を丸くして、旬を見つめるだけだ。


「俺、高三の……十八になってすぐに教習所通って、そんですぐ免許取ったの。……言ってない?」


「……うん」

 奈津美が静かに頷くと、今度は旬の方が目を丸くした。


「え、マジで? ごめん、言ったつもりだった」


「……ううん」


「あー、でも、もうずっと乗ってねえしな。俺も自分の車は持ってないし」


 旬の言うとおり、今まで、一度も車でどこに行くという話は出ていなかったし、こんな話になることはなかった。だから、奈津美は知らなかった。

 しかし、逆を言えば、旬が何も言わなかったから、奈津美はそんなものと旬は無縁のものだと思い込んでいた。奈津美の興味の対象外だったから、尚更だ。


 高校の時に、といえば、まだ奈津美と出会っていない、付き合う前の話だ。

 そして、奈津美と旬が付き合い始めて、まだ一年とやっと半年だ。


 知らなくたって、しょうがない。


 しかし、奈津美の胸の中には言いようのない焦れた感情が湧いていた。