「あー。写メ撮っておけばよかったかも。滅多に生で見れることないんだし」

 旬は、もうとっくにさっきの場所を通り過ぎてしまって、車だってどこにいったのか分からないのにまた名残惜しそうに後ろを振り返る。


「……旬って、車好きだったのね。知らなかった」


 こんな旬を、奈津美は初めて見た。

 強いて言うなら、旬が甘いものを食べる時には、こんな風に楽しそうではあるけど、それもまた違う気がする。

 何かこう、それ以上のものを感じるのだ。


「うん! カッコいい車って憧れるし。俺、これでも昔はF1レーサーになりたかったんだよ」

 笑顔で旬は言う。


「へえ、そうなの?」


「うん、……つっても、小学生くらいまでの話だけどな。テレビでさ、F1レーサーに密着みたいなのやってて、それ見たら何かたいへんそうだなーって思ってやめたけど」


「……なんか旬らしい」

 昔から、そうやって単純なのは一緒だなと思うと、奈津美は自然と笑ってしまう。


 そう言えば、小さい頃の話とはいえ、旬から『夢』の話を聞くのは初めてだ。


「男の人って、車好きな人多いわよね。知り合いでも好きな人多いから」


 たまに、女の知り合いでも、車が好きだという人もいるが、やっぱりそういった嗜好があるのは男の方が多い。

 奈津美なんかは、国産の、テレビなどでCMしているものくらいしか分からない。

 外車だって、本当に誰もが知っているものしか知らない。

 それに、道を走っているものだって、マークだけを見てやっと分かるぐらいだ。

 さっきの旬のように、一瞬ですぐにどこのものだとは分からない。


「いやー。やっぱ男にとっては車って憧れだよ。どんな車に乗るかで男の品格が問われるつーか」


「ふーん? そうなの」


「そうだよ。だって、めちゃくちゃ秋葉系の奴でもさ、車がロールスだったら見る目変わるじゃん」

 そういわれて、奈津美はその様子を想像してみる。


「……何となく分かるけど。その例えは秋葉系の人に失礼じゃない?」


 要は、腕時計や装飾品と同じで、車によってその人の金銭感覚やセンスが分かるということなのだろう。

 確かに、それを言われればそうだ。