「ちょっ……何言ってるのよ!」


「えー? ちゃんとオブラートに包んだ言い方したじゃん。ナツ、深読みしちゃった?」


「なっ……そんなんじゃっ……」


「今更照れることもないって。ナツ、かわいいなぁ」

 旬はニヤニヤと笑って奈津美の頭に頬を寄せた。


 歩きながらだったので、手を繋いだ二人の体がよろめく。


「ちょっと! 人前だしっ……こんな街中でやめてよ!」

 体勢を整えながら奈津美は旬に怒る。

 しかし旬は、ただヘラヘラと笑って反省の色を見せない。


「もう……」

 呆れながら、奈津美はため息をついた。


「へへっ……あ」

 笑っていた旬の注意が、突然変わった。

 道路側に顔を向け、反対方向からくる車を目で追って、後ろを振り返る。


 そのまま、しばらく後ろを向いたまま、フラフラと歩いていた。


「……旬? 前向かないと危ないでしょ」

 奈津美が旬の手を引いた。


「うん……なあ、ナツ、今の車見た?」

 旬が奈津美の方を向いて言った。その目は何故か輝いている。


「車? 車って?」

 奈津美はきょとんとして聞き返した。


「今通った車、珍しいんだよ」


「そうなの?」


「うん。うわー。トミーカイラって、道で走ってるのは初めて見た」

 旬はまた振り返って、車が消えた方向を見ている。


「え? トミー……何?」

 耳慣れない言葉が旬の口から飛び出てきて、奈津美は旬に聞き返した。


「トミーカイラ。知らない?」


「……うん。外車なの?」


「ううん。会社は日本だけど……あ、さっき通ったのはイギリス生産のやつだったんだけど。まあ、どっちにしてもめったに見ないからなー」

 そう説明しながら、旬は興奮状態のようだ。いつも以上に饒舌な気がする。


 そのまま、奈津美がよく分からないその車種について薀蓄さながらに話し始めた。


 奈津美は、それについて最初は相槌をうっていたが、そのうち話が分からなくなり、ただポカンと喋る旬を見ていた。