奈津美と旬が街を歩く時、旬は必ず道路側を歩く。


 彼氏が道路側を歩くというのは、多くのカップルがそうしていることであろう。

 そしてその理由のほとんどは『道路側は危ないから』という、彼氏が彼女を守ろうという、小さな心遣いだ。


 旬の場合も勿論そうだ。奈津美は、それが自然にされていることで、何も気付いていなかった。


 旬のその行動に、奈津美が知らない旬のことが隠れていたなんて、知らなかった。




「あー。美味かった」

 旬は満足そうな顔をして言った。


 旬と奈津美のデートでは定番となった、ケーキバイキングの帰りだ。


「でも、何でバイキングとか食べ放題って、時間制限あるんだろうな。九十分って、短すぎだし」


「時間制限もなかったら、お店の採算がとれないからでしょ。でも、九十分で千五百円って、安い方でしょ」

 不満そうな旬を奈津美が宥める。


「えー。でもまだぜんぜん食えるのに」


「……あれだけ食べといて、まだ食べれるの?」


 旬は、いつものことだが、ケーキを次から次へと食べていっていたので、かなりの量を食べる。


 奈津美に喋りかけながらも食べるので、奈津美からしたら、いつの間にか皿いっぱいにのせたケーキがきれいになくなっているのだ。


 旬が短いと言う九十分の間に、旬は何回ケーキを取りに行っただろう。

 そして、あれだけ食べてもの足りないとは、旬の体はどうなっているのだろう。


「本当、旬って甘いもの好きよね」


「うん! あ、でも、食うのはナツの方が好き」


 にっこりと笑顔で言った旬の言葉が一瞬理解できずに奈津美はきょとんとしていたが、すぐに耳まで真っ赤になった。