「明日が休みだったら……ね。あたしもずっとこうしてたいんだけど……」

 上目使いで旬を見て、奈津美はフォローするように言った。

 この上目使いは無意識なのだが、旬には効果覿面だ。


「明日休んじゃえばいいじゃん。仮病でも使ってさ」

 つい本音でそう言ってしまう。


「ダメよ。こんな個人的なことで仕事休んだら」

 予想はしてたが、奈津美からはきっちりとした返答だ。


「……それに、今休んだら、甘えてダメになっちゃいそうだから。現実逃避しちゃうことになるでしょ? それだけはいやなの」


 今は、旬がいるから落ち着くことができている。今までにあったことが、嘘みたいに消えてなくなっている感覚だ。

 しかし、実際はそうじゃない。事実は消えてなくなるわけはないのだ。


 このまま旬と長い時間いたら、それこそ旬に依存してしまいそうな気がする。


 本当は一緒にいたいけれど、このままじゃいけない。


「……ふうん」

 奈津美の思っていることが分かったのか、旬はまだ少し名残惜しそうだが、素直に引き下がった。


「じゃあ、朝まではずっとこうしとこ。俺もナツを充電しとかないと頑張れねえし」


「うん……」

 旬の胸に顔を埋める。旬の温もりが心地よくて、段々瞼が重くなってくる。


「旬も、ちゃんと眠ってね?」

 うとうとしながら奈津美は言った。


「うん。大丈夫。ナツが寝ちゃったら俺もすぐ寝ると思うから……」

 最後の方は、欠伸をかみ殺したような声で旬は言った。


 やっぱり、今日は眠いんだ。


 それでも旬は優しく奈津美の背中を叩いてくれた。

 ゆっくりとしたリズムで、それが更に眠りを誘う。


「旬……おやすみ」


「うん。おやすみ」


 そして奈津美はあっという間に、眠りについた。


 この世の中で、一番優しくて、落ち着けて、安心できる場所で……