「あ、そういえば、加奈は? 続いてんのか?」

 旬が思い出したように言う。


「ああ。一応な」


「おー。なげぇなぁ。もう二年半か?」


「先月で二年半だよ。でも、聞いたぞ。お前も彼女出来たんだって? しかも年上の」


「え!? マジで!? そんな噂になってんの!?」

 驚いた口調になりながらも、彼女の話題が出た途端、旬はニヤけだした。



「うわ! キモイってその顔!」


「キモイっていうなよ! ちょっと思い出し笑いしただけじゃねえか」


 そんな言い合いをしながら、二人は笑った。


「ん? 涼介、何見てんだ?」

 ふと旬の視線が涼介の手に行き、雑誌を覗きこんだ。


「あ、ここってテレビでよくやってるとこじゃん! 俺、行ってみたいって思ってたんだ」

 子供のように目を輝かせながら、旬が言う。


「ああ……実は、ゴールデンウィークに加奈と行くってことになってさ……」


「へぇー…いいなぁ………て、あれ? お前こういうの苦手じゃなかったっけ?」


 その瞬間、涼介の頭にある考えが浮かんだ。


「旬、頼む! ここ、一緒に行ってくれ!」

 涼介は手を合わせ、深く頭を下げた。


「へ……?」

 旬はただきょとんとしていた。






「……それで、今日の、ここの入場料も、昼飯代も、俺が旬と旬の彼女の分も払うからって言って、無理に頼んだんです」


 そうか。そういうことか。


 やっと奈津美は今回のことに納得がいった。

 誘われる時も、どこか態度が変だったのは、こういう理由があったからだ。


 それに……


『ナツは高所恐怖症じゃない?』


 さっき言った旬の言葉に感じた引っかかりも理由が分かった。

 旬は、涼介が高所恐怖症ということを知っていたから『ナツは』と、区別するような言い方をしたのだ。