「そっか……やべ。こんな時なのにちょっと嬉しい」

 旬の声が笑いを含んだようなものになった。照れている表情の旬が思い浮かぶ。


「じゃあ、バイト終わったら行くな。十時に終わるから……半ごろには行けると思う」


「うん……分かった。待ってる」

 会うと約束をした瞬間、奈津美の気持ちはとても緩んだ。最初から、素直でいればよかったと思う。


「……旬」


「ん?」


「ありがとう。バイト、頑張ってね」


 だから奈津美は素直な心からの気持ちでそう言った。


「おう。んじゃ、また後でな」

 どこか満足そうな声でそう言って、旬は電話を切った。


 通話を終えて、奈津美は携帯を閉じた。


 携帯についた傷を見て、また少し落ち込んでしまう。


 しかし、あと数時間したら、旬に会えるから、もう少し我慢しよう。

 そう思って、携帯の傷を撫でた。