「……ナツ? どうかした?」

 黙ってしまった奈津美を窺うような旬の声だった。


「ううん。何もないよ。バイト頑張ってね」

 奈津美は明るく振る舞って答えた。旬に気を遣わせるようなことはしてはいけない。


 すると今度は旬の方が黙ってしまった。


「ナツ……バイト終わったら、ナツの部屋行こうか? ていうか、行っていい?」

 旬の言葉に奈津美の心臓は跳ね上がった。

 電話だというのに、心の中を読まれたのかと思った。

「えっ……いいよ! あたしは大丈夫だから……旬、バイト帰りなんだし……」


 本当はとても嬉しいが、素直に甘えるわけにはいかなかった。

 昨夜から、いや、ストーカーの被害があってから、旬にはひどいことしかしていないのに、これ以上負担になるようなことはさせたくなかった。


「ううん。俺が行きたいんだ。ナツの大丈夫って顔見ないと、まだ安心できない」


「あ……」


 そうか。まだ早い時間に電話をしたりして、これが旬に心配をさせてるんだ。


 やっぱり我慢すればよかった。

 旬がバイトを終えて連絡をくれるのを素直に待っていればよかった。


「あ、つうか、ナツの方が嫌? 今日、平日だもんな……あ、でも、ナツの顔見たらすぐ帰るからっ……」

 旬の方が気をつかってそんなことを言ってくれる。


 旬のバイトが終わってから奈津美の家に来るとなると、何だかんだで泊まりになってしまう。

 特別な日以外の平日の泊まりは嫌がる奈津美だから、旬は気にしてそう言ったのかもしれない。


「ううん! そんなことない! あたしも……旬に会いたいから……」

 奈津美は素直に言った。


 旬にばっかり気を遣わせて、心配させてしまっている自分が情けない。

 今の奈津美が旬にできることといったら、素直になることだ。