「……ごめん」

 つい謝った。何も言わないことに耐えられなかった。


「何でまた謝んの?」

 旬は少し目を見開いて言った。


「だって……」

 続く言葉はない。

 謝ってしまったら、してはいけないことをしたと認めているような気がして、気まずかった。


「……いいよ。ナツは俺にだから言いにくかったんだろ? カオルさんなら女の人同士だし、言いやすかったんだろうし」

 奈津美の気持ちを察したように言った。口元は微笑んでいた。


「それに……ナツが一人で悩んでたわけじゃなかったんなら、よかった」


 そう言って貰えて、奈津美は思わず泣きそうになった。


 どうして旬はこんなに優しいのだろう。

 いつもいつも思う。

 旬の優しさを知っているつもりでも、旬は、それ以上に優しく温かい。


 ぐうぅ〜……きゅるきゅるる……


 この場に不釣合いな、気の抜ける音が響いた。


「あ」

 旬が腹を押さえた。


「そういや俺、昨夜から何も食ってねえや」

 少し恥ずかしそうに腹をさすりながら旬が言った。


 昨夜から……奈津美も何も食べてはいなかった。

 きっと旬も、何かを食べるような余裕なんてなかったのだ。


 奈津美は今もそんなに食欲はない。でも、旬はそういうわけでもないだろう。


「朝ごはん、作るね」

 奈津美はベッドから降りようと旬から体を離した。


「うん。あ、簡単なのでいいから……」

 旬もベッドから移動しようとして体を動かす。


 その時、何気なく動かした旬の手が、奈津美の内股に触れた。


 それと同時に、奈津美の頭に、昨夜のことがフラッシュバックした。

 あの時撫でられた、手の感触までも……