「あ」

 旬が思い出したように声を出す。


「何?」


「俺、部屋の鍵かけないで出て来ちゃったかも」


「え!?」


 奈津美は思わず声を上げて、なんて物騒な、と思ってしまったが、きっと自分のせいだ。


 旬は、奈津美が電話をして、文字通りすぐに飛び出して来たに違いない。部屋の鍵のことなんて、考えもしなかったのだろう。


「……ごめんね。あたしのせいだよね」

 憔悴して奈津美は謝った。


「何でナツが謝んの! ナツのせいじゃないよ! それに、別にあけっぱにしてても何も盗むもんなんてないし。ドロボー入ったってすぐ出てくよ。だって俺のあの部屋だよ?」


 奈津美の気持ちを軽くしようと旬はそう言って笑った。

 奈津美は旬の部屋を思い浮かべて確かに、あの部屋を見て何か悪さをする気は失せるだろうなと思って笑った。


「……よかった」

 旬が微笑んだ顔のまま言った。


「え?」


「ナツ、笑ってるから。まだちょっと元気ない感じもするけど」


 旬に言われて、奈津美ははっと気付いた。


 あたしってば、なに暢気に笑ってるのよ。

 今回のことは、全部あたしのせいなのに……旬にしなくてもいい苦労かけたのに……


「こら。今何か余計なこと考えてるだろ」

 旬が奈津美の頬を両手で包んだ。


「ナツはほっとくとすぐにネガティブに考えて落ち込むからな。ほら、笑ってー」


 旬は親指で奈津美の口角を押さえ、ぐいっと上に持ち上げる。


「やっ……ちょっと、あにすんのー!」

 無理矢理持ち上げられて上手く口が開かない。

 必要以上に上げられて、きっと不細工な顔になってる。


 旬の手から力が抜ける。顔が近付いてきたと思ったら、額にキスをされた。