翌朝、奈津美はふと目を覚ました。


 いつの間にか、眠りについていたらしい。

 体を動かそうとすると、上手く動けない。旬の腕がしっかりと奈津美の体に巻きついている。


 昨夜はずっと、旬が奈津美の体を抱き締めていてくれた。


 なかなか眠れず、何度も寝返りを打ったり、体を捩ったりしていると、旬は優しく抱き締めて、背中を撫でてくれていた。

 そのおかげで、奈津美は眠りにつくことができた。

 きっと旬が居なかったら、目を閉じることさえできなかっただろう。


 奈津美は旬を起こさないようにそっと抜け出そうとした。


 しかし、奈津美がそっと体を動かしただけで、旬の瞼がピクッと動いた。

 旬の目がうっすらと開く。


「ん……ナツ、起きた?」

 寝起きのかすれた声で旬が言った。


「うん……おはよ」


「おはよ……今何時?」

 眠そうに目を擦りながら旬は体を起こした。


 時計を見ると、七時半を過ぎた頃だった。

 いつも奈津美が起きる時間とほぼ同じだ。


 昨夜あんなことがあったのに、奈津美の体はいつもの習慣通りに起床したらしい。


「旬……今日はバイトあるの?」


「んーと……十二時から。カフェの方……そんで、夜は居酒屋」

 よほど瞼が重たいようで、旬は目を閉じながら答えた。


 今日は二つとも入っているのか。それなのに、こんな風に寝不足にしてしまって……


「……ごめんね。バイトの時間まで寝てていいよ」

 せめて今からでも少し休んでほしくて、奈津美は旬に言った。


「ううん。一旦帰る。着替えてこねえと……それに、財布とか持ってきてないし」


「そっか……」


 旬が履いていたジーパンは、ストーカーと揉み合っていたときに地面について、砂だらけになっていた。

 寝る時はとりあえず奈津美の部屋に置いてあるスウェットを履いて寝たのだが、それでバイトに行くわけにもいくまい。