次のことは、一瞬だった。


 ゴッと鈍い音がしたと同時に、奈津美に覆い被さっていた男が地面に転がった。


 奈津美の体が一気に軽くなる。


「ナツ!」


 奈津美の視界に旬が現れ、優しく奈津美の肩を掴んで起こしてくれた。


「しゅ……ん」

 奈津美はこの状況が分からなくなって、放心状態だった。


 旬は、奈津美の乱れた服を見て、目を見張る。


 その視線に気付いて奈津美はとっさに腕で体を隠した。


「ううっ……」

 倒れた男が呻き声をあげる。旬は男を見ると形相を変えた。


「……っの野郎!」

 旬はそう叫ぶと男に飛び掛った。


 体を起こそうとした男の胸倉を掴み、横っ面を拳で殴った。

 その勢いでまた男が倒れる。

 それに跨るようにして、何回も男を殴った。


 鈍い音が響き、その度に男の低い呻きが聞こえる。


 奈津美は震えながらそれを見つめるしか出来なかった。





「おい! 何してる!」


 小さい明かりと共に、また違う男の声が聞こえた。