足が重く感じる。

 そんなに距離はないはずなのに、なかなか外まで辿りつけない、すぐそこに出入り口は見えているはずなのに……


「あっ……」


 靴が足に引っかかって上手く一歩が踏み出せず、奈津美はその場に転んでしまった。


「痛……」

 顔をしかめながら自分の足を見ると、右のパンプスのストラップが切れてしまっていた。


 立たないと……


 そう思いながら、地面についた手を見ると、携帯がない。


 奈津美は膝をついたまま携帯を探した。


 今のこの状態で、携帯なんて気にしたってしょうがない。


 奈津美も、あの携帯でなかったら、無くなったことさえ気付かなかったかもしれない。


 だけど、あれだけは、無くしたくない。


 旬が嬉しそうに手に取っていた、旬とのお揃いの携帯。あれが無くなってしまったら……


 必死に探すと、近くの電灯の光の中に携帯があるのを見つけた。


 立ち上がることも上手くできないまま、奈津美はフラフラと携帯の元に近付いた。


 そして奈津美が携帯に手を伸ばした瞬間、地面に映った奈津美の影が、大きな影に覆われた。


 奈津美は反射的に振り返った。

 逆光によって表情までは判別はできなかったが、そこには、見知らぬ男が立っている。


 ただ偶然、通りがかった赤の他人、というわけではないようだ。


 男は、肩を上下に動かして息を荒くし、奈津美のことを見ている。

 そして、ふらり、と奈津美の方に近寄ってきた。


 恐らく男が、ストーカーだ。


「いや……」


 奈津美は立ち上がることが出来ないまま、後ずさった。


 男の荒い息遣いが近くなる。


 足が震えて力が入らない。


 助けて。助けて……


「旬……」


 今、頭に浮かんだ名前を、奈津美は呼んだ。


「旬っ! たすけ……!」


 奈津美が大声をあげたと同時に、奈津美は地面に押し付けられてしまった。