カツン……と、石が地面を転がる音がした。


 奈津美は肩を震わせて外の方を見た。音はそっちの方からした。


 ……誰かいる。直感的にその気配を感じ取った。


 ここにいてはいけない。

 バクバクと心臓が早鐘を打つ。

 一歩後ずさると、奈津美の足音が響く。

 それと同時に、誰かの足音も聞こえた。


「……いや」


 もう一歩後ずさると、地面に落ちた写真の一枚を踏んだ。

 咄嗟に見ると、さっきの男性器の写真だった。


 一気に背筋が冷たくなる。


 奈津美は、一目散にコーポを飛び出した。


 奈津美は走りながら鞄の中を探った。

 震える手で必死に携帯を探り当て、リダイヤルを押して通話ボタンを押した。


 コール音が一つ鳴ったところで旬が出た。


「はい、もしもしー。ナツ……」


「助けて!」


 何も知らない、いつも通りの旬の言葉を遮って奈津美は叫んだ。


「え……ナツ? どうしたの? 何かあったの?」

 旬は奈津美の反応に困惑した様子だ。


「ストーカーが……」

 声が震えて、うまく喋れない。


「ストーカー!?」

 予想外の言葉に旬は大きな声を出した。


 奈津美の目からはどっと涙が溢れた。


「怖いっ……」


 奈津美はただそれだけ、旬に訴えた。


「ナツ、今どこにいんの?」

 旬の緊迫した声が聞こえる。


「しゅ……旬のマンションに……走って……」

 奈津美は言葉にならないままに伝えた。


 それで旬にはなんとか通じたらしい。


「分かった。俺も今からすぐ行くから。一旦切るよ? 大丈夫?」


「う……うん」


「すぐ行くから!」

 旬がそう言うと、すぐに電話が切れた。

 奈津美はその携帯を握りしめながら、旬のマンションへと走り続けた。