「絶対に大丈夫って確証が出るまで、それなりの対策しといたら? 一人で歩く時とか特に」


「うん……」

 奈津美は小さく頷いた。




 その日、奈津美は残業で七時を過ぎてから会社を出た。


 カオルはああ言っていたけれど、絶対に大丈夫という確証は、どのタイミングで分かるのだろう。


 ストーカーの方がやめると言ってくるわけなんかないし、音沙汰がないからといって安心できるものなのだろうか……


 とにかく、何もなくなってからまだ一週間も経っていない。

 とにかく、今は警戒しながら過ごすしかないだろう。


 奈津美はふと振り返った。


 何だか、視線を感じた気がする。しかし、そこには誰も居なかった。


 気のせいだろうか。


 しかし、ここは人通りが少なく、夏ではあるが、今日は曇り空のせいで七時過ぎでも薄暗い。


 急に気味が悪くなって、奈津美は足を速めて歩いた。



 コーポが見えるところまで辿り着き、奈津美はここまでくればとほっとする。


 カオルが言うから、必要以上に意識してしまった。


 ストーカーは、まだこの場所を知っている。


 奈津美がここを立ち退かない限りは、完全にストーカーを振り切ることはできないだろう。


 だからといって、引越しなんてすぐに出来るわけではないし、それに、何回引っ越しても、しつこいストーカーはどこからか嗅ぎ付けてついてくるのだと聞いたことがある。


 そうなると、八方塞がりだ。


 奈津美はコーポのエントランスに入ると、郵便受けを開けて中を確認する。


 必要な郵便物が入っていることは少なく、ダイレクトメールや、広告チラシが入っているだけ……ではなかった。


 何通かの郵便の下に、茶色い封筒が入っていた。

 大きめの封筒はパンパンに膨れていて、宛名も差出人の名も何も明記していなかった。