携帯を変えて以来、もうストーカーからメールも電話もくることはなかった。



「よかったじゃない。ちゃんと対策になったみたいで」

 奈津美がそのことを伝えると、カオルがそう言ってくれた。


「うん……でも、まだ一昨日と昨日と……今日もまだきてないだけだから、分かんないんだけどね」


「何? 奈津美、浮かない顔して……」

 奈津美の心は、まだ落ち着いてなかった。


「なんか……まだ安心できないんだよね。メールも電話もなくなればもう一安心だって思ってたはずなのに……」


 携帯を変える前は、番号もメールアドレスも変わってしまえばこっちのものだと思っていた。


 しかし、実際に携帯を変えて、番号もメールアドレスも変えて、電話もメールもなくなったはずなのに、不安はなくならない。


 まだ、そんなに時間が経っていないというのもあるかもしれない。

 どうしても、嫌な予感がしてならない。神経が過敏になってしまったのだろうか。


「奈津美にしては慎重ね。まあ、それくらい警戒しておいた方がいいかもしれないわね。ストーカーがいなくなったってわけじゃないし」


「……どういう意味よ、私にしてはって」

 しかし、一言多いにしてもカオルの言うことはもっともであることには違いない。


 これではまだストーカーを撃退したとはいえないのだ。


「用心するのに越したことないってことよ。だって奈津美、家の場所とかストーカーに知られてるんでしょ?」


「あ……」

 カオルに言われて、奈津美は思い出したようにポカンと口を開けた。


「あ、って……忘れてたの?」


「わっ……忘れてたっていうか、そこまで頭が回ってなかったっていうか……」


 しどろもどろになる奈津美に、カオルは大きなため息をついた。


「慎重なのかどうなのか、分かんないわね」

 カオルが呆れたように呟く。

 奈津美は返す言葉がない。


 でも、実際、頭が回ってなかったのだ。

 たった二日とはいえ、ストーカーからの音沙汰が全くなかったせいで、そっちに意識がむかなかったのかもしれない。