「――ナツ?」

 旬の声が聞こえて、奈津美ははっとする。


「ん? 何?」


「明日、行っていい?」


「え……?」

 旬が何の話をしていたのか、奈津美は全く聞いてなかった。


「ごめん、何の話だっけ?」


「だから〜。明日の話。明日のデートさ、携帯の機種変に行っていい?」

 明日は、旬と会う約束をしていた日だ。旬はその話をしていたらしい。


「あ、うん! いいよ!」

 話を全く聞けなかったのを申し訳なく思いながら、奈津美はすぐに頷いた。

 どっちにしても、明日は特にどうしようという予定もなかったのだ。


「携帯変えるの?」

 何でもなかったことを装うように、奈津美の方から話題を振った。


「うん。今の携帯電池が持たなくてさー。もう電池パックパンパンだし、今だって充電差しながら電話してっから。そうじゃないとすぐなくなるし。やっと二年経ったし、給料も入ったから替えようと思って」


「そっか……」


 タイムリーなことに、旬から携帯の話が出た。


「……ねえ、旬。じゃあ、ショップに行くのよね?」

 思い切って、旬に確認した。


「うん。そうだよー。駅前んとこの。何で?」


「……うん。あのね、あたしも携帯替えようかなって思ってて……まだどうしよっかなって思ってるんだけど」


 少し迷った末に、奈津美は言った。


 奈津美がと旬が今使っている携帯の会社は、同じである。

 自分一人でいきなり替えに行くとなると躊躇してしまうが、旬が行くと言うのなら、奈津美もそれに乗じて行こうと考えられたのだ。


「あ、そうなんだ。じゃあナツも一緒に替えようよ」

 勢いで言ったおかげなのか、旬は何も疑問に思わなかったらしく、明るくそう言ってくれた。


「うん……」

 少しほっとしながら奈津美は返事をした。


「んじゃ、明日、うーんと……九時半! 九時半にナツんちに迎えにいくから」


「うん。分かった」


 旬と話したおかげか、明日、携帯を替えたらもう怯えることはないだろうという思いがあったからか、この時には、奈津美はもう安心しきっていた。