「あー、面白かったー」


「なー。ホントスッとしたし」


 『コメット・トラックス』をあとにして、加奈と旬はもり上がっていた。涼介は落ち着いて二人を見ている。


 そして奈津美は、ふらふらになっていた。


 『コメット・トラックス』とは、直訳で『彗星の軌跡』という意味らしい。

 宇宙をイメージした暗い空間を、上に行くのか下に行くのか、右に曲がるのか左に曲がるのか、それが分からない状態で猛スピードで駆け抜けていくものだった。

 それをよく知らず、何も考えずに乗った奈津美は、酔ってしまったようだ。

 しかも、星をイメージしたライトがチカチカと眩しくて、頭がくらくらする。


「加奈。次は何に乗ったらいいんだ?」

 旬は全然平気のようで、同じく元気な加奈にそう聞いている。


「えっとねー。次は……あれ!」


 加奈が指さす先には、この遊園地の目玉の一つとでも言えるだろうという、大きなジェットコースター……


 かなりの高さから急降下し、コースを見てみると、大分上下に激しく動くらしく、乗っている客の悲鳴がここまで聞こえる。


「おおー! すっげー!!」

 旬は早くも興奮している。



 ……無理。


 奈津美は自分でも血の気が引くのが分かった。

 今この状態であんなのに乗って、耐えられる自信がない。


「じゃ、早速行くかぁ!」


「あ、あの……」

 出発モードの一行に奈津美は声をかけた。


「あたし……さっきので気分悪くなっちゃったから……みんなで行ってきて。あのベンチで待ってるから」

 奈津美は近くにあったベンチを指さして言った。


「え!? うわ! ナツ、ホントに顔色悪いじゃん! 大丈夫?」

 さっきまで薄暗い室内だったために、旬は今改めて見て奈津美の様子に気付いた。


「大丈夫ですか?」

 加奈も心底心配そうに奈津美の様子を窺う。


「うん。ちょっと休んだら治まると思うから……だから皆心配しないで行って」

 こんな中で気を遣わせてしまうなんて申し訳ない。奈津美は辛いながらも、必死に笑顔を作って三人に言う。