その時、奈津美の携帯が鳴った。


 最近の条件反射で、肩が大きく震える。


 携帯の方の着信音だ。


 もう嫌……


 奈津美は目をかたく瞑り、耳を塞いだ。


 着信音は鳴り止まない。


 やめて……もう……


 しかし、奈津美ははっとする。


 この時間帯だと、旬からかもしれない。

 画面を見たらすぐに分かることなのに、それすら躊躇してしまう。


 旬だったら出たい。出なくてはならない。だが、もし違って絶望するのも嫌だ。


 奈津美は恐る恐る携帯に手を伸ばした。


 着信を確認するだけなのに、心臓が大きく震えている。


 決心して画面を見ると、そのに表示されていたのは、旬の名前だった。


 あからさまにホッとして、奈津美はすぐに通話ボタンを押した。


「……もしもし」


「あ、やっと出た。ナツー? 旬だよー」

 明るい旬の声が聞こえて、ぐっと胸が締め付けられた。


「うん……」


「どしたの? 電話出るの遅かったけど」


「ごめんね……ちょっと、手が離せなくて」

 上手い言い訳が出来なかった。

 かといって、電話におびえていたなんて、本当のことを言えるわけもなかった。


「そっか。もう夕飯の支度とかしてたの?」


「うん、そう」

 旬の言うことに、適当に合わせる。


 どうして、好きな人の電話にも怯えないといけないのだろう。


 着信音の設定をしておけばよかったのかもしれない。

 いつもは、かかってくる電話の殆どが旬からだったから、わざわざ設定はしていなかった。

 今日、旬からの電話にこんなに怯えてしまった自分が情けなかった。


 何でこんな思いしないといけないの……?