「ひっ……人が真剣に感謝してるっていうのにっ」


「はいはい。じゃあそろそろ仕事しないとー」

 カオルは軽くあしらうと、くるりと方向転換して、オフィスに入っていった。


「もうっ……」

 奈津美は小さく呟いたが、ちゃんとわかっている。


 これは、カオルなりの励ましだ。奈津美の気持ちが沈まないように、元気付けてくれているのだ。


 ……ありがとう、カオル。


 改めて心の中で感謝しながら、奈津美はカオルに続いてオフィスに入った。




 とはいえ、いくらカオルが励まして、気持ちが軽くなっても、現状は変わらない。


 帰宅した奈津美は、携帯の画面を見てため息をついた。重い気持ちがぶり返す。


 今日も、大量のメールがきていた。もう携帯を見るのも嫌だ。


 でも、携帯をチェックしないと、旬からの連絡が入っているかもしれない。

 だから、容易に電源を切ることもできないのだ。


 朝、仕事の前に最後に携帯を見てからの受信メールが十四件。着信が五件。


 履歴を削除すると、奈津美は携帯をローテーブルに置いた。


 明らかに、日に日に増えている。

 最初は、メールが入ってこない時間帯というものが、日によって違ったが、あった。

 それが段々となくなって、一時間に何件もメールや電話が入っていることになる。


 アドレスを拒否してもまた違うアドレスになってメールがくる。

 もし奈津美がメールアドレスを変更したら、その分が着信に集中しそうな気がする。


 カオルの言うように、携帯を替えるということも考えておいた方がいいかもしれない。