かなり構えていたのに、夜八時を過ぎても、気がつく限りの異変はなかった。メールも今のところきていない。


 昨日と今日の大量のメールや、ゴミを持っていかれたというのは気のせいだったのだろうか。


 あれだけおかしなことが続いていて、こうもぴったりと治まるのも不自然で気味が悪いような気はするが、もうこれで心配ないのならそれでいい。


 心配しただけ損だったかも。


 そう思って奈津美は緊張を緩めた。


 その時だった。


 ローテーブルに置いた携帯が震えた。

 テーブルを伝った振動が思った以上に大きな音をたてて、奈津美は肩を震わせた。


 すぐに止まったので、多分メールだ。


 嫌な予感がした。


 奈津美は恐る恐る携帯を手に取り、パチンと音を立てて開いた。


 待ち受け画面には、メール受信のアイコンに1の数字。


 携帯を操作し、奈津美は受信メール一覧の画面にする。


 そこに表示されたのは、登録されていないアドレス……今までと同じアドレスだった。


 また来た……


 安心したところだったのに、奈津美の背中に再び悪寒が走る。


 ここで、読まずに削除すればいいのに、奈津美はそのメールを開いてしまった。


「……! 嫌っ!」

 奈津美は携帯を放り投げた。


 ゴトンと鈍い音をたてて携帯が落ちた。


 手が震える。気味が悪い。


『今日は会えて嬉しかったよ。君すごくいい匂いするね』


 何……何なの……


 見られていただけじゃない。奈津美のすぐ近くにまで迫られていた。


 あれだけ神経質になっていたはずなのに、全く気付かなかった。それが尚更気味が悪い。