「何なの? あれ……」

 奈津美は二人の背中をめで追いながら、独り言のように呟いた。


「さあ……でも、夢咲まいみって……何か聞いたことあるような……」

 カオルが、何か考えるような仕草をする。


「何? 知ってるの?」


「何だっけ……」


 そして、二、三秒考えたところでぱっと何か思いついたようだ。


「そうだ。アレよ。夢咲まいみって」


「アレって?」


「AV女優」

 奈津美の表情が固まった。


「はっ!? 何?」

 カオルがあまりにもさらっと言うので、聞き間違いかと思った。


「だから、AV女優だってば。アダルトビデオに出てる女優さん。知ってるでしょ?」

 カオルは丁寧すぎるほどに説明する。なんてこともないという様子だ。


「わっ……分かってるわよ! ていうか、そんな普通の声で言わないでよ」

 奈津美は真っ赤になりながら声を潜めて、周りの目を確認する。


「大丈夫よ。逆にそわそわする方が不自然でしょ」


 カオルがサバサバしているのはいつものことではあるが、ここまで気にしないのもどうなのだろうか。


「でも、何でカオルがそんなの知ってるの?」


「昔付き合ってた男がね。大量にAVを隠し持ってるのを見つけちゃってね。その中にその人のもたくさんあったのよ。しかも、映画だと思って再生したらいきなり『夢咲まいみ・お外でもイッきま〜す』ってタイトルが出たら覚えるでしょ」


「……なるほどね」


 できれば共感したくないことだが、似たような経験がある奈津美には、納得できすぎて頷くしかない。