「……でもさあ、髪型の変化とかに気付いてくれるのっていいわよね」


「は?」


 昼休みのカオルの何の脈略もない発言に、奈津美の箸が止まる。


「何、いきなり」


「朝の話。旬君は髪型の変化とか、すぐ気付いてくれるんでしょ?」


「別にすぐってわけでもないけど……まあ、大体は。……何? 塚田さんは気付かない人ってこと?」

 カオルがこんな風に言うのも珍しい。少し変な感覚で奈津美は尋ねる。


「気付かないっていうか……あれは宇宙人よ」


「は?」

 カオルの不思議発言に、奈津美は目を丸くする。


「何それ、どういうこと?」


「例えば、髪型変えるでしょ? 何も言ってくれないのよ。まあ、そこまでならよくあることだからいいの。でも、こっちだって何か言ってほしいからね、言うのよ。そしたら『あれ? 変わったのってもっと前じゃなかったっけ?』って意味不明の発言するのよ」


「えっ……それって……」

 それ以上の言葉は、言う前に止めた。


「うん、私も最初は思ったわよ。まさか他の女と間違えてるんじゃないかって」

 奈津美が言おうとことを感じ取ったらしく、カオルは頷きながら言った。


「でも、私の分かる限りではそんな素振りなかったし、どうなのかは微妙だったの。だから、遠まわしに何と間違えてるのって聞いたのよ。そしたら、ちょっと考えて『あ、何か夢で見たことあるんだ』とか言うのよ。ちょっと怖くない?」


「怖いって……それってどういう風にいうの?」


「普通に言うのよ。別に浮気を誤魔化すための言い訳でもなく、キザにかっこつけて言うわけでもなく。まるで、昨日道ばたで友達と会ったんだ、って話をするみたいに」


「へえ……塚田さんてそういうこと言う人なんだ」


 奈津美の中でのカオルの彼氏のイメージは、真面目で、しっかりしてて、どこから誰が見ても完璧な男、だった。

 まさかそんな不思議発言をするとは思わなかった。