旬は目の前にいる奈津美の頭を、ポンポンと軽く叩いた。


「なーに? 旬」

 旬の方は見ずに、奈津美は手元の作業を続ける。


「んー。ちょっと色違ったなーって思って。俺とナツの髪」

 右手で奈津美の髪を一束とり、左手で自分の髪を摘んで見比べている。


 旬の髪の仕上がりは、意外と明るい色になった。

 今までに比べて明るい茶色になった奈津美の髪色よりも、明るい色になった。


「いいんじゃない? その色も旬には似合ってると思うし」

 奈津美は顔を上げて旬の髪に視線をやって言った。

 旬には、あまり落ち着いた色のイメージがないからか、明るい色の方が似合うと思う。


「ホント? んならよかった」

 旬は満足そうに笑った。



 奈津美がガムテープを捨てて、片付けていると、旬は後ろから奈津美の体に腕を回してくる。


「な。俺、男前になった?」

 旬が期待に満ちた目で奈津美のことを見る。


「えー? 何、いきなり」


「髪の色変えてー、前髪切ってー、ちょっと男前になった?」

 奈津美の右肩に顎をちょんと乗せて、奈津美の顔に直接話しかけるように旬は言った。


「さあ、どうだろうね。あんまり変わらないと思うけど」


「えー。こういう時は『かっこよくなったよ。あたし、ドキドキしちゃう』っていうもんじゃないの?」

 台詞の部分をやたら女っぽく、ナヨッとして、オカマみたいだった。


 思わず奈津美はふき出した。


「何それ。あたしがそんなこというわけないでしょ」


「……でも俺はナツに言って欲しい〜」

 流石に奈津美の性格も分かっている旬だが、懲りずにむくれている。


「俺は言ったのにー。ナツのこと可愛いって、いつも言ってるけど、言ったのにー」

 旬は更にブーブー文句をたれてくる。


「はいはい。かっこよくなったよ、旬。すごいかっこいい」

 しょうがなく、奈津美は棒読みで言った。