「……ナツ」


「何?」

 突然旬が顔を上げた。

 そして素早く奈津美に顔を近づけると、チュッと音をたてて軽く唇に触れた。


 あまりにも早業過ぎて、奈津美は一瞬何をされたのか分からなかった。


「へへっ。すきあり」

 旬は奈津美との距離が近いまま、旬はニッと笑った。


「……なぁ!?」

 奈津美の顔はさっき以上に赤くなる。


「何ふざけてるのよ!」


「ナツ可愛いー!」

 ニコニコしながら旬は奈津美に体に腕を巻きつけた。


「ちょっと……抱きつかないでっ。服濡れるでしょ!」


「んー。ナツー」

 奈津美の言うことには構わずに、旬は奈津美に頬ずりする。


「もうっ、旬ってば!」

 旬の髪の水滴で、奈津美の顔にも水滴がついて、奈津美の肩も濡れた。


 それについては奈津美は怒っていたけれど、旬に対しては、毒気が抜けるのか、本気で怒ることはできなかった。






 この時すでに、悪夢のようなことが起こりつつあったなんて、二人には、知る由もなかった。