「おっ……お金ないのに奮発しなくてもいいの!」

 訳が分からず奈津美はそんなことを言ってしまった。


「えー。いいじゃん。これは気持ちよくするための奮発なんだから。俺もナツも」


 その言葉に奈津美は耳まで真っ赤にする。


「今夜試しに一つ使って比べてみような」

 ニッと笑って旬が言った


「……もう! バカ!」

 あまりの恥ずかしさにそれしか言えなかった。


 それでも、旬の買い物が奈津美のためのものであると思って、少し嬉しく思ってしまった。

 これだと奈津美の方がバカなのかもしれない。



 昼食を済ませてから、旬の髪の髪のカラーの準備をする。


 洗面所に一番大きな鏡があるので、洗面所に椅子をもってきてやることにする。


「じゃあやるよ」


 全ての準備を終えて、手袋をして、カラーリング剤の入ったボトルを持った奈津美が緊張しながら旬に声を掛けた。


「おうっ。どんとこい! ……ていうか、そんな緊張しなくてもいいよ、ナツ」

 旬が笑いながら言った。


「だって自分のやるよりも緊張するっていうか……初めてだし」


「別に失敗してもいいってー。……でも、初めてだから緊張か。何かいい響きだな」

 鏡に写っている旬はにんまりと笑っている。


「え? 何が?」


「いや、こっちの話」

 へへっと笑って旬が何か誤魔化している。


 奈津美は何となく聞きたくない気がしたので、何も追及しなかった。