「ただーいまー」

 旬が帰ってきた。

 奈津美は台所で昼食を作ろうとしていた時だった。


「おかえり」

 部屋に入ってきた旬に、奈津美は声を掛けた。


「ただいまー。なんかさあ、久々に買うからどれがいいかとか全然分かんなくてさー」

 旬がドラッグストアの袋から、買ってきたカラーリング剤を出して言う。


「これがナツの色に一番近いかなーって思って」

 箱に書いてある仕上がり見本を奈津美に見せた。


「でも、俺がやったらどういう風になるか分かんないし」


「んー。確かにそうね。でも、別にあたしと一緒じゃなくてもいいでしょ? ただ染め直すだけなんだから」


「うん。まあ、それはそうなんだけど」


「……あれ? 旬、他にも何か買ってきたの?」

 奈津美が、旬の持ってる袋の中にまだ何かが入っている風なのを見て気付いた。

 奈津美が言うと、旬はニヤリと笑った


「ナツ、手、出して」

 旬が袋に手を入れながら言った。


「え? 何?」

 わけが分からずだた言われた通りに奈津美は手を出した。


「おみやげ」

 そう言いながら旬は奈津美の手のひらに何かを置いた。


「なっ」

 それを見て奈津美は目を見開いた。


 丁度、奈津美の手のひらサイズの長方形の箱には『極うす』とデカデカと書かれていた。

 それが、一目で避妊具だと分かってしまう自分が、更に恥ずかしい。


「いやー。昨夜もうなくなりそうだなーって思ったからついでに買ってきたんだ。それ、よさそうだなーって思って。ちょっと高かったけど、奮発して買っちった。あ、それ、ナツんちのストックな。これ、俺んちのやつ」

 嬉々としながら、もう一つ同じものを奈津美に見せる。


 奈津美は顔を真っ赤にして、何も言えない状態だ。


 こんなもの買ってくるな、と思わず言いそうになってしまうが、それは言ってはいけないことだ。