「ひっでー! 何でいきなり叩くんだよぉ」

 鼻を押さえながら旬は奈津美を見た。


「いきなりは旬でしょ! 何考えてんの、こんなところで!」


「スキンシップだし! 愛情表現だし!」


「だからこんなとこでしないでって言ってるの! 恥ずかしいでしょ!」


 言い争っているようだが、はたから見ればバカップルのいちゃつきだ。そしてそれは、涼介と加奈にもそう映っていた。


「旬。お前、そういうとこ変わんないなー」


「うん。全っ然変わってない」

 涼介と加奈が二人を見て笑いながら言った。


 奈津美は笑われたことに恥ずかしくなって下を向いた。


 絶対、向こうの第一印象最悪だ……こんなつもりじゃなかったのに……


「じゃ、とりあえず入るか」


「そうだなー」


 涼介と旬のその言葉で、四人は入場ゲートに向かった。


「あ、ナツ。これ、渡すの忘れてた」

 旬が思い出したように言ってポケットから出したものを奈津美に渡した。


「え?」

 奈津美はそれを見て、目を丸くした。


 旬に渡されたのは、この遊園地の入場チケットだった。


「旬がこれ持ってたの?」


「うん。何で?」


 何でも何も、奈津美は、チケットは旬の友人が持ってるから、こうして待ち合わせてるのだと思っていた。

 しかし、実は旬が持っていたのなら、わざわざこうして待ち合わせて行く必要なんてなかったのではないか。

 というか、そもそも本当にWデートをする必要なんてあったのだろうか……


「……ううん。別に、何でも……」

 今更になってそれをここで旬に直接言うわけにもいかず、奈津美はそう言って誤魔化した。


「そう? じゃ、早くいこー!」

 旬はご機嫌な様子で奈津美の手を引いて入場ゲートにへと行った。


 こうして、どこかすっきりしないまま、おかしなWデートは幕を開けたのだった。