「ミキ……ごめ」


「謝らないで」

 旬が言い終わる前にミキが言い放った。


「お願いだから、謝らないで……謝られると、しょうがなかったって、思えないから……」

 今までよりは冷たい口調で、今までよりも一番声が震えていた。


「ミキ……」

 旬は思わず『ごめん』と続けそうになって、寸でのところでやめる。


 本当は、謝りたい。たくさん謝らなければならない。


 でもそれは、きっとミキのことを多少なりとも傷つけることになる。それは旬にだって分かった。


「……あー、すっきりした」

 ミキは、ふうっと息をついて言った。


「ずっと気になってたから、それがなくなった感じ。ありがとね、旬」

 ミキはくるりと旬を振り返った。

 やっぱり目には涙が溜まっていて、頬にはそれが流れた跡が残っている。


「……あーあ。私も早く彼氏作らないとなぁ」

 ぐっと腕を伸ばして、伸びをする姿勢でミキは言った。


「……ミキなら、すぐにできるよ。俺よりいい奴なんて、いっぱいいるんだからさ」

 何を言っていいのか分からない旬は、控えめに言った。


「うん。知ってる」

 ミキはそれに対して、笑みを浮かべて言った。


 それにつられて、旬はやっとミキに対して笑えたと思う。

 きっと、ほんの少し口元が緩んだだけだっただろうけれど。


「じゃ、私帰るね」

 一歩旬から離れてミキは言った。


「時間取らせてごめんね。でも本当にありがとう」


 最後の『ありがとう』は、たくさんの意味があった気がする。少なくとも旬は、そう受け止めた。


「じゃあ……ね。ばいばい」


「うん……じゃあな、ミキ」


 ミキは旬に背中を向けて歩き始めた。

 一歩一歩遠ざかっていく背中を、旬はじっと見つめていた。


 やがてミキが公園を出て行き、見えなくなっても、旬はじっとそこに立っていた。



 そして、旬は思い立ったように歩き出した。