旬にとっての、ミキと別れてから今日までは、奈津美と出会い、奈津美と付き合い始めた時間と殆ど等しい。


 だから、ずっと奈津美でいっぱいだった。

 それは、ミキだって同じなのだと思っていた。

 もうとっくに旬のことなんか忘れていて、旬よりも好きな人がいて、幸せにとまではいかなくても、もう過去は過去のものとして進んでいっているのだと……


「ミキ……」

 旬が呼んでも、ミキは顔を上げない。きっと、上げられないのだ。


 それでも、旬は言葉を続けた。


「ミキが謝ることなんてない。俺……あの時は本当に自分のことしか考えてなかったから……だから、ミキのこと怒らせて……だから、ごめん」


 あの時の自分は、幼くて、浅はかだった。


 物事は自分が思う通りに進むと思っていて、ミキの為にと思っていたことが正しいと、信じ込んでいた。


 それが結局、一方通行のまま、ミキを怒らせるだけのことになって……だから別れた。


 ミキの為にと思ってやることが、ミキの為にならないのなら、きっとこれからも同じことが起こるような気がしたから。


「……旬だって、謝ることないのに」

 ミキが顔を上げた。まだ涙目で、赤く充血していた。


「あーあ。本当に、こんなつもりじゃなかったのになぁ」

 ミキは独り言のように言い、苦笑する。


「……私ね、ちょっとだけ期待してたんだよ」

 くるりと旬に背中を向けて言った。


「え?」

 突然何のことか分からず、旬はきょとんとする。


「私が別れるって言ってから、旬の方から、やり直したいとか、言ってくれるんじゃないかって。……調子いいよね、本当に」

 最後の方の声は、再び震えていた。


「でも、そんな風に期待してる間に、旬には彼女ができちゃうんだもんなぁ……変に試すようなこと、しなきゃよかった」


 ミキは、笑おうとしているのだろうか。

 もしそうだとしたら、その後ろ姿は痛々しかった。