「ミキは……何であの時、俺に告ってくれたんだ?」

 こんな時に、こんな状況でそれを聞いてはいけないのかもしれない。

 だけど、聞くなら今しかない。もうこれで最後なのだから。


 ミキは口元に僅かに笑みを浮かべた。


「覚えてないの? あの時、私達の少し前にカップルが歩いてて……」


「あっ……」

 ミキに途中まで言われて、旬の記憶は蘇る。



 あの時、旬とミキの前を、同じ高校の男女が歩いていた。

 見たことがなかったから、おそらく他の学年の生徒だ。


 しかし、手を繋いで歩く二人を見ていたら、カップルであるということは一目瞭然だった。


 それを見て、旬から聞いたのだ。ミキは好きな奴はいないのか、と。

 そしたら、ミキは急に黙り込んで、次の時には真剣な顔をして、旬のことが好きなのだと言った。


 そして「好きになったの」と、告白された。それが始まりだ。



「……私ね、正直言うと、旬のことあんまり好きじゃなかったの」


 ミキの声で、旬は我に返った。


「……え」

 ミキの意外な言葉に、旬はきょとんとしている。


「だって、しょっちゅう部活サボってたし。しかも、トレーニングの日なんか殆ど来たことなかったでしょ」

 ミキの言い方には、多少の棘があるように聞こえる。


「それは……その……」

 今更こんな話をしても、別に誰に咎められるわけでもないのに、旬は何となくバツが悪かった。