どうしてミキがここにいるのか、分からなかった。


 ミキと別れてから一度も会っていなくて、連絡も取っていなかった。

 ミキは、旬が一人暮らしをしていて、ここに住んでいることなんて知らないはずだ。


 それなのに、何で……



 今、二人の間には五メートル少しの距離が開いている。


 旬は、その距離をどうしたらいいのか分からず、立ち尽くしたままだ。


 しかし、動きがあったのは、ミキの方からだった。


 ミキの顔がふとこちら側を向き、目が旬のことを捉える。

 声は聞こえなかったけれど「あ」と言った気がする。


 ミキはゆっくりと旬の方に近づいてくる。


 旬はぎゅっと口を引き結んだ。緊張して、変な風に、体に力が入っていた。


「……旬」

 ミキが、旬との間に少し間を開けて立ち止まった。


「ミキ……何で、ここに?」

 やっと声に出せたのがそれだった。


 でも、色々考えて、言えることはこれしかなかった。


 ミキは、少しバツが悪そうに斜め下を向いて、旬から視線を外している。


「ごめん……その、田中君に聞いたの。旬が、このマンションで一人暮らししてるって」


 田中に……

 ああ、だからか。田中がミキのことを聞いてきたのは。


 どんな経緯かは知らないが、ミキが田中に旬のことを話題として持ちかけたということだ。

 そして、田中は旬がここで一人暮らしをしていることを話した。そういうことだろう。


「あっ……でも、部屋がどこなのかまでは聞いてないからっ。今日も、少しだけ待ってみて、会えなかったら、もう諦めるつもりで……」

 言い訳をするように、顔を上げて必死に言う。

 しかし、最後の方はまた声が小さくなり、顔も下に向いていく。