二人の言い合いを、奈津美は微笑ましく見ていた。


 前に会った時は、互いに勘違いをしていたが、今はそんなことは全くないようだ。


 むしろ、前以上に仲睦まじくなったのではないだろうか。


 もしそれが、あのWデートがきっかけだったのなら、奈津美は何もしていないけれど、なんだか嬉しい気持ちだ。


「あ、奈津美さん。座って下さい」

 立ったままだった奈津美に対し、加奈が隣の椅子に置いていた鞄をどけて『どうぞ』と微笑む。


「えっ。いいよ、あたしは……二人の邪魔したら悪いし」

 当然ながら奈津美は遠慮する。


 今は、挨拶程度にやってきただけなのだ。デート中の二人に混ざって長居はできない。


「いいですよ。邪魔なんかじゃないです」

 加奈は笑顔のまま首を横に振る。


 奈津美は正直、少し驚いた。

 前に会った時、加奈は奈津美が涼介と一緒にいただけで、奈津美に敵愾心というか、嫌悪感というか、とにかく悪いように感じていた。

 それなのに、今日はそれがない。


 加奈の方にも、それだけ気持ちに余裕ができてきたということなのだろう。


「じゃあ……少しだけ」

 奈津美は、加奈の言葉に甘え、少しだけ、一緒にさせてもらうことにする。


「何か頼んできますか?」

 涼介がカウンターを指差して言った。


「ううん。大丈夫。あたし、さっきまで旬と喫茶店にいたから」


「旬とデートだったんですか?」

 奈津美が答えると、今度は加奈が尋ねる。


「うん。旬はこれからバイトだから、さっき別れてきたところなんだけど」


「そうなんですか」


「奈津美さん、旬とは相変わらずですか?」

 涼介はニッと口角を上げて笑う。


「相変わらずって……まあ、別に、特に変わりはないけど」

 そう答えながら、奈津美はまた今日のことを思い出した。


 丁度今日、旬の元彼女に会ってしまった。特に、何か問題があったというわけではないけれど。