旬に別れの理由を聞いたから、こんなにすっきりしない気持ちになってしまったのではないだろうか。

 旬が、はっきりと言わなかったから尚更だ。


 色んなことが気になって、不安になって、頭の中がパンクしてしまいそうだ。



 ――コンコン


 奈津美の右側から、何か硬いものを叩くような音がした。


 反射的に、奈津美はその方を向く。


「あ」

 一人だったけれど、思わず声を出してしまった。


 奈津美が歩いていた右側には、コーヒーショップがあり、そこの窓に面した客席に、久々に見た顔……涼介と加奈がいた。


 二人は笑顔で奈津美の方に手を振っている。奈津美も二人に手を振り返す。


 すると、加奈が横に振っていた手を縦に振り、おいでおいでをするような仕草をした。


 奈津美は少し驚いて『私が、そっちに?』と、口パクと指を指して尋ねてみた。


 加奈はニコニコと笑って、大きく頷いた。

 涼介も笑顔で加奈に同意しているようなので、奈津美は、とりあえず言われたように店内に向かった。



「奈津美さん。久しぶりですね」


 奈津美が店内の二人が座っている席に向かうと、まず、涼介が言った。


「うん、久しぶり。前に遊園地に行った以来だもんね」


 GW以来だから、ほんの二ヶ月ぶりのはずだが、遊園地でのWデートが、もうずっと前のことのようだ。


「あ、涼介君。高所恐怖症は治った?」


「いやー……それは……」

 涼介は渋い顔をして言葉を濁す。


「聞いて下さいよ、奈津美さん。涼介ったらね、あれ以来、また行こうねって約束したのに、全然行ってくれなくて」

 涼介に対し、加奈が口を尖らせて言った。


「俺は別に約束してない。ていうか、一回行っただろ」

 涼介はブスッとしながら言い返す。


「一回なんて行ったうちに入んないよ。涼介、ほとんど乗ってないし」


「あれで十分だっての」