歩きながら、奈津美は今日のことを振り返る。


 まさか、旬の元彼女と鉢合わせすることになるとは思わなかった。


 そして、旬があんな反応を見せるなんて、思いもしなかった。



 旬にミキとの別れの理由を聞いた後、お互いに話題を変えようとして他愛のない話をして、いつも通りに笑おうとしていた。


 それでも奈津美は、どこかうわの空だった。


 旬の言うことに反応し、ちゃんと言い返してはいたけれど、それをしていたのは体だけで、頭では違うことを考えていた。


 旬とミキのことが、気になってしょうがないのだ。


 もう終わったはずのこととはいえ、悪い方へと考えてしまう。


 旬が振られたということは、旬は少なからずもミキに未練があったということではないのだろうか。


 奈津美と付き合っていて、その間は未練なんて感じていなかったとしても。


 今日会って、その気持ちがぶり返してしまうことだってあるんじゃないのか……


 いや、そんなことはない。


 もし、誰かに未練がある状態で、旬が奈津美に笑いかけてくれるはずはない。


 奈津美は、旬の優しい笑顔を思い出す。


 奈津美がそれを信じないでどうするのだ。


 ……そう思っても、いくら旬が奈津美に向けてくれる笑顔を思い出しても……



『俺が、バカだったから』



 ミキとの別れの理由を話す時の、あの何とも言えない表情が奈津美の不安をかき立てる。


 そして、気になる。どうして別れることになったのか。


 前に、居酒屋で旬の知り合いの話を聞いた時。

 確か、旬とミキは、旬が大学受験に失敗したことが原因で別れたと言っていた。


 それなら、もし旬が大学に受かっていたのなら、二人は別れていなかったのだろうか。


 もし別れて居なかったら、奈津美と出会っていても、今のような関係にはなっていなかったのだろうか。


 ……やっぱり、あんなこと、聞くんじゃなかった。


 奈津美は小さくため息をついた。