「じゃあな、ナツ」
「うん……バイト、頑張ってね」
四時過ぎに、旬は居酒屋のバイトがあるので、今日のデートはここまでだ。
「うーん……行きたくねぇなぁ……」
旬は口を尖らせて言った。
「せっかくのデートだったのにさぁ……もうちょっとナツと居たいのに」
そんな言葉に、奈津美の胸はキュンと締め付けられる。
「もう……そんなこと言わないの。会えただけでもよかったじゃない」
奈津美は少し余裕ぶってそう言ってみる。
「ナツは、寂しくない?」
旬は小首を傾げ、まるで子犬のような目で奈津美を見つめる。
「寂しくないわけじゃないけど……でも、会えただけでも十分よ? 旬が時間作ってくれたんだから」
これは、本当の気持ちだ。旬に会えるだけでも、奈津美は満たされる。
ただ今日だけは、ほんの少し強がりも含まれているけれど……
「……へへっ。そっか。それならいいや」
旬は単純に嬉しそうに顔を綻ばせた。
「バイト終わったらメールする」
「うん」
「んじゃ行ってきます」
「行ってらっしゃい」
そうして、お互いに手を振って別れた。
旬が見えなくなるまで見送ろうとしていると、少し離れたところで、旬は振り返った。
奈津美としっかり目が合うと、にっこりと笑って手を振ってくる。
奈津美も頬を緩ませて手を振り返した。
旬はそれで満足したように歯を見せて笑い、また歩き始めた。
今度は振り返ることなく、姿が見えなくなる所まで行った。
……帰ろう。
奈津美も、家に向かって歩こうとする。
あ、でも本当にスーパー行っとかないと。
あの時、旬にはその時の思い付きで、言ったことだったが、本当に食料品を買っておかなければならない。
そう思い直し、奈津美は目的地を変えて歩き始めた。