「久しぶり。……元気だった?」

 彼女は、ぎこちなく笑みを浮かべて言った。


「うん。……ミキは? どう? 大学」

 珍しいことに、旬も、何だかぎこちない。


 こんな旬を、奈津美は初めて見た。


「うん。楽しくやってるよ」


「そっか……よかった」


 ぎこちない雰囲気を醸し出しながら会話をする二人を、奈津美はもやもやとしながら見ていた。


 そして『ミキ』という名前に、何か引っかかっていた。

 聞いたことがあるような気がする。でも、どうして聞いたことがあるのか……


 奈津美はすぐには思い出せなかった。


「旬は……デート中?」

 『ミキ』はそう言って、チラリと奈津美に視線を向けた。


「あ、うん」


「そっか。……じゃあ、あたし、行くから。じゃあね」


「うん……じゃあな」


 ミキは去り際に奈津美に軽く会釈をした。

 それに合わせて、奈津美も頭を下げた。


 ミキはそのまま、奈津美達が来た方に歩いていった。


 その後ろ姿を見たまま、奈津美は何も思い出せなかった。


「ナツ、行こ」

 旬が奈津美の手を引いた。


 その顔は、いつもとなんら変わりのない笑顔だった。