それは、何てことのない、日曜日の出来事だった。


 奈津美と旬は、街中を手を繋ぎながら歩いていた。



「腹減ったなー」

 旬がぽつりと呟いた。


「えっ、もう? お昼食べたばっかりじゃない」


 時刻は午後三時過ぎで、昼食は、一時頃に摂ったのだ。


「食べたばっかじゃないよー。もう消化されたし。なあ、ナツ。サ店かどっか行こー?」

 旬が何となく甘えを含んだ言い方で言う。


「……もう。しょうがないなぁ」

 そんな風に言いながらも、本心は行ってもいいと思っている。


 今日は特に目的のないデートだし、この暑い中を歩くより、どこか涼しいところでのんびり休むのもいい。


「やった。じゃあ行こ」

 旬は本当に嬉しそうに笑う。

 それを見て奈津美も笑みを浮かべた。


「俺、パフェにしよっかなー」


「まだお店も決まってないのに? 今から行くとこにはないかもしれないよ?」


「んじゃパフェがあるとこにしよ。今、俺すっげーパフェの気分だから」

 まるで女の子のような発言を聞いて、奈津美は思わず笑った。


 そんな風に、取り留めのない会話をしながら歩いていた時だった。



「……旬?」


 二人が歩いている前方から、不意に呼ばれた。


「え?」

 旬は反応し、顔を横の奈津美から正面に向ける。

 奈津美もほぼ一緒に、声の方に向いた。


 そこには、奈津美にとっては初めて見る女が立っていた。


 二十歳前後ぐらいの、一目で可愛いと思う風貌の女だ。

 白い肌に、垂れ目気味の大きな目が印象的で、自然な茶色のボブヘアーが顔の小ささを際立たせている。


 デニムのミニスカートに膝丈の黒のレギンス、それに黄色地にピンクの蝶のプリントされたTシャツというシンプルな恰好。

 それでも余計な肉のついていない体つきと、そうでありながらTシャツを押し返す胸の膨らみは、彼女のスタイルの良さを引き立てているようだ。


「……ミキ」

 小さな声で、旬が呟いた。とても驚いたように目を見開いて、ほとんど、無意識のようだった。