考えていても、埒があかない。

 奈津美は、旬に電話してみることに決めた。


 リダイヤルで旬を呼び出す。


 コール音が、一回鳴り終わる。ここで少しおかしいと感じた。いつもなら、鳴り終わるかどうかで出るのに、出ない。


 二回目……三回目……コール音が切れたのは、三回目が鳴り終わってからだった。


「…………」

 コール音が途切れて、通話中になったはずなのに、何も聞こえてこなかった。


 絶対におかしい。


「もしもし、旬?」

 奈津美の方から、声をかけてみた。


「旬、どうしたの? ていうか、あのメールは何?」


「…………」


 全く反応がない。


「ちょっと、旬? 聞いてんの?」

 痺れをきらし、奈津美は少し口調をきつめにして言った。


「…………ナツ……」

 やっと反応があった。しかし、奈津美はその声を聞いてぎょっとする。


 電話の声は、ひどくかすれていて、いつもの旬の声とは違っていた。何となく旬っぽいという声と、奈津美の名前を呼ぶイントネーションがそうだということで、旬だということは判断できた。


「旬? ちょっと……大丈夫なの?」

 奈津美は事態を悟って、緊迫した声になる。


「……もう、だめ……」


「え、ちょっと……旬!?」

 奈津美は必死に呼びかけたが、もう電話は切れてしまっていた。


 しかし、電話をして、大体予想はついた。

 旬はやっぱり風邪をひいたのだ。だからあんなひどい声になっていたのだろう。


 なぜ『やっぱり』と思ったのか。

 それは昨夜のことに遡る。