「だから……だから言ったじゃない〜……」

 何だか悲しくなって、奈津美の目からは涙が出てきた。


「な……ナツ? 何で泣くの?」

 旬は驚いて体を起こした。


「旬が……旬が太ったって言ったぁー……」

 まるで小さい子供がいじめられた時のような言い方だ。


「言ってないじゃん! 柔らかくなったって言ったんだよ。それにナツは元がすっごい細いんだからちょっとぐらい太ったって変わんないよ! つうか、もっと太った方がいいぐらいだし」


 旬がそう言っても、奈津美は泣いたまま、顔を横に向けた。

 声は出さないようにしているが、何度も洟を吸っている。


「ナツ……何でそんな気にするの? そりゃ、女の人は普通気にするのかもしれないけど……でも、そこまで気にしなくてもいいじゃん」

 旬は頭を掻きながら言った。


「……だって」

 横を向いたまま、涙声で、奈津美は口を開いた。


「だって……太ったら……今はよくても、そのうちたるんできちゃうんだもん」


「……え?」

 奈津美の口から出てきたことが予想外過ぎて、旬はきょとんとしている。


「それだけじゃない……肌だって、皺とかシミとかできて……今よりハリも艶もなくなってくるし……あたしは……旬よりも早く、おばさんになっちゃうから……」

 自分で言ってて、更に悲しくなってきた。涙がどんどん出てくる。


「そしたら旬は……絶対、あたしなんかより、若い子のほうがいいってなるから……だから……」


 少しでも長い間、若くいられるようにしようと思った。

 旬が好きだと言ってくれた体を維持しようと思った。


 言い方を変えれば、ただの若作りだ。

 まだ二十代で必死になってやるのは、少しみっともないのかもしれない。


 それでも、旬をつなぎ止めるためだと思ったら、しないではいられなかった。