「……え?」

 旬は顔だけを上げ、奈津美を見た。


「怒ってないの?」


「うん」


 奈津美が頷くと、旬は目を丸くした。


「で……でも」

 旬はガバッと体を起こした。


「昨日、エッチしなかったのって、怒ってたからじゃないの?」


 予想外の流れで、その話題になった。奈津美は息を呑んだ。


「……それは……怒ってたんじゃなくて……」

 そこまで言って、奈津美は口を噤んだ。


 本当のことは、やっぱり言えない。言いたくない。


「何? 何でダメだったの?」

 しかし、何も知らない旬は、ストレートに聞いてきた。


 その目は、真剣で、不安の色も混ざっていた。


 奈津美は、それを見ていられなくて、俯いた。


 なんて最低なんだろう。


 本当なら、昨日の奈津美の言動は、旬を怒らせてもしょうがない。

 それなのに、旬は、奈津美が怒っているからだと思って、自分が奈津美を怒らせたんだと思って、必死に謝っている。


 前にも、同じ様なことがあった。

 その時に比べたら、その原因はより自分勝手で、より下らない。


 そして、旬は、原因がはっきりしない分、自分を責めてしまっている。


 旬は全然悪くないのに……


「ナツ……?」

 何も言わず、俯いたままの奈津美に、旬は伺うように声をかける。


「…………たの」

 下を向いたまま、奈津美が何かを言った。


「え?」

 聞き取れずに、旬は聞き返す。


「……太ったのっ! あたし……」

 はっきりと奈津美は言った。恥ずかしくて、太ももの上の手を強く握り締めた。


「……へ?」

 旬は、今度は間抜けな声を出した。